バリ島の大富豪 丸尾さんの教え

この本を買った特典です。

(以下)
【兄貴の教え 第1話】 「謝る人」は、好かれるし信用される

――とある日の、深夜29時。

兄貴と話しながら、僕は、日本のことを思い出していた。

本当は、もう1~2週間、早く兄貴に会いにくる予定だった。それができなかったのは、僕が仕事の「ミス」をしたからだ。そのミスの事後処理に追われてしまい、バリ島への渡航の予定がズレてしまったのだ。

僕は、取引先数社に請求書を送った際、「単価の記入を間違う」という大きなミスをおかした。取引先の会社がすぐにミスに気がつかなければ、会社にも、取引先にも、さらに大きな問題に発展したかもしれない。もちろん、「僕に割り振られた仕事の量」が多すぎ
るのも原因なんだけれども、僕の上司からは、相当、こっぴどく怒られた……。

「あの…、兄貴。僕は、仕事でミスをしてしまったとき、『自分が悪かったこと』を素直に謝れないときがあるんです。当然、自分が悪いのはわかっているのですが、会社の仕組みが悪かったりする部分もあるわけで…。つまりは、やっぱり怒られるのが嫌で、ついつい言い訳を考えたり、責任転嫁をしてしまいます。そういうズルいところがあるんですよね。基本的には、謝るのって、やっぱり、みんな嫌じゃないですか」

兄貴は、カップラーメンから顔を上げると、ニッと笑って、得意げに言った。

「あのな、いっちゃん。おそらく、いっちゃんは、『なんとか誰かの責任に転化できないか』、『うまい言い訳はないか』そればっかり考えとるやろ」

……図星だ。

「あのな、いっちゃん。当たり前やけれど、悪いことしたら、ちゃんと謝らなアカン。それでな、完~全に徹底的に謝ってこそ、やっと『帳消しのゼロ』になるんや。それでな、謝れないというのはな、実は、『悪いと思っていないから謝れない』のではないんや。それとは、違う理由があるから謝れないんやて」

「兄貴、それは、どんな理由ですか?」

兄貴は、鋭い眼光で、こちらをグッと見た。

「それはな…、『自分に信用が足りないと思うとるから謝れない』というのが、本当のところなんや。そん

でな、実は、逆に謝ったほうが信用が上がるんや」
兄貴は、完全に、ニッと笑った。

「兄貴、信用が足りないと思っていると、どうして謝れないのですか?」

「自分に圧倒的に『信用』があるんやったらな、たとえ、相手に謝っても、全然、自分は傷つかへんやろ。自分に圧倒的な信用があれば、謝られたほうだって、受け入れてくれるわけやから、へっちゃらプ~で、謝れるわけや」

「…なるほど」

「それでな…、今現在、自分に信用がないと思っていても、勇気を出して、謝るんやて。謝るからこそ、『この人は自分の悪いところを認められて、さすがやなぁ』と、さらに信頼が上がるんや。ウソをついたり、言い訳ばっかりしたり、他人のせいにするヤツより、『潔く非を認めて謝るヤツ』のほうが、間違いなく信用されるんや」 兄貴は、「ヤバイで、オレ、ごっついええ話してもうたわ」と言うと、ニッと笑った。

「……兄貴、確かにそうですね、そう思います」

「しかもな、さらに、すごいオマケもついてくるのや。自分が『失敗や、失敗や、本当にすまなかった』と謝っても、そこまでこちらが潔く謝ってしまうとな、『失敗』ととらない相手がいてくれるんや。『なに言うてんの、そんなん成功のうちやで』と言うてくれる
やさしい人もおる。『いつもはしっかり仕事をする人やから、今回はなにか事情があって、ミスをしたのかもしれない』と、逆に、かばってくれる人もいるんや」

「兄貴。けれど、謝ってしまうと、『自分が悪い人間だ』と認めてしまう気がしませんか? それがいやで、僕は、謝れないんです。だって、自分では、誠心誠意、頑張ってやったつもりなんです。それが、たまたま失敗しちゃっただけなんです」

兄貴は、さらに、二口、ズルルルッ! と、カップラーメンをすすって、こう言った。

「そこやねんて。謝ったからといってな、自分がやったことが『悪い』とは限らないやろ。『たまたま間違うただけ』かもしれんやんか。手抜きをするのは論外やけど、『一生懸命やった上での間違い』は誰にでもあるねんて。オレに言わせたら、そんなもん『間違うとって当たり前』やで。なんせ、人のすることなんやで、『いつも、やることなすことパーフェクト炸裂の人』なんて、どこにおるねん」

兄貴は、「のう?」っと言うと、ニッと笑った。

「では、兄貴、上手な謝り方はありますか? どうやって謝れば、信用が増えるのでしょう?」

「実は、これには強烈な『必殺技』があるんやけれど、いっちゃん、それ知りたいか?」

「はい、兄貴…」

兄貴は、グッと身を乗り出して言った。

「それはな…、できるだけ大勢の人の前で謝ることや」

「え、それだと、みんなに、みっともないところを、見せてしまいますが…」

「だから、やるんやて。あのな…、迷惑をかけてしまった本人の前で頭下げてるヤツは、それでも、まだ、割といてるねん。AさんがBさんに迷惑かけたら、AさんがBさんに謝るとかや…。これが普通やろ」
「はい」
「せやけどオレなら、完~全に違うで。失敗したら『しめた!』とばかりに、バコーンと大勢の前で頭を下げるよ。『完全に、オレが悪かった、本当に、すまん』って。あ~、これが完~全に100点満点の謝り方やな」

兄貴は、完全にさわやかに、ニッと笑った。

「兄貴、そう謝ると、どうなるのですか?」

「そんな、潔さ炸裂の謝り方しちゃったらな、全員が、『この人は自分の悪いところを認められてさすがやなぁ』と思ってくれるわけやから、『なに言うてんの、そんなん成功のうちやで』って、みんなが口をそろえて言ってくれるよ。そんなに潔く謝れる人のことをな、『そうだ、そうだ、オマエは失敗した!』って、大勢の前で責めれる人はいないんやて。これこそ、ホンマもんの謝り方や。謝るときはな、思い切って『できるだけ大勢の前で謝れ』が正解やねん」

兄貴は、ズルルルッ! とカップラーメンをすすると、ニッと笑った。

「じゃあ、いっちゃん、聞くけど、『謝る人』と『謝らない人』なら、いっちゃんは、どっちが好きやねん?」

「僕が好きなのは、謝る人ですね、やっぱり……。それも圧倒的に」

「せやろ? ということはや……。ようするに『謝らない人』よりも『謝る人』のほうが、みんな好きだってことやねん。なぜ、謝る人の方が好きかというと、それは、『謝ってくれる人』=『間違いを認められる人』=『信用できる人』っていう置き換えが成立するからなんや」

「兄貴、確かに…。『間違いを認められる人』=『信用できる人』って気持ち、わかります。だって、あきらかに間違っているのに認めない人は、やっぱり信用できないですし…。やっぱり、そういう人って、特に、会社の上司とかだと、すごく多いんです」

兄貴は、「せやろ」というと、さらに、ズズズズッ! とカップラーメンをすすった。

「いっちゃん、リンカーンって知っとるか? アメリカで、一番、人気のあった大統領やねん。当時、アメリカが南北に分かれて戦った『南北戦争』ゆうのに勝ってな、『奴隷解放宣言』をした人や」

「も、もちろんです。リンカーン、有名すぎますよ」

「あのリンカーンがな、後の人々に、『リンカーンの偉大な謝罪』と言われている事件があったんや」

「兄貴、知りたいです」

「あのな、アメリカの南北戦争の最中にな、スコット大佐という人が、事故で死んでしもうた奥さんの『葬式』のために、休暇が必要になったんやけれど、上官が『休暇をとってはダメや』というたんや」
「はい」

「それでな、上官の上官である、リンカーン大統領のところに、直接、相談に行ったんやけれど、『君のような状況の人はいっぱいいてるし、上官がダメ言うたら、ダメや。戦争に勝つことが、君の仕事だ』と、リンカーンは言い放ったんや。まぁ、そら、大統領やから、ごっつい、忙しかったんやろな」
「そうでしょうね」

「それでな、スコット大佐は、しかたなく宿舎にもどったんやけれど、翌朝、なんと、リンカーンがスコット大佐の宿舎を訪ねてきたんや。それで、スコット大佐の手を握るとな『昨日はあまりにも疲れていて、国のために戦い、妻を失ったキミにする態度ではなかった。一晩中、後悔したが、謝りに来た』と言うて、謝罪しよったんや。しかもな、スコット大佐が奥さんの葬式へ行けるように、いろいろ手を回してくれたんや。リンカーン、ちゃんと謝る人で、さすがやなぁと、大勢の人の信用を得たんやて。どや、リンカーン、やりよるやろ?」

「兄貴、リンカーン、やりますね」

兄貴は、得意げな顔をして、ニッと笑った。

「せやからオレは、バリ島で『兄貴セミナー』とかを開いてもらって、人前で話すときはな、のっけから『今日はみんなに謝らなあかんねん』とか言って、意図的に謝ることがあるんや。相手の信用を得るために、いきなりわざと謝ってしまうんや。そりゃ、セミナーを聞きに来た相手も戸惑うわな、『いや、なにが? 兄貴、いきなり、なにを謝っちゃっているんですか?』みたいな」

「兄貴、謝るって、なにを謝るのですか?」

「『遅刻したこと』について謝るんや。じつはオレ、わざと遅刻することがあるんや。遅刻はさ、謝りやすいやろ。実際、バリ島は一本道が多いから、よう道が混んでいることもあるし、混んでなくても、会場に到着する手前に、なんとラーメン食べちゃってみたりするわけや」

「え、ラーメンですか?」

「せや。セミナー会場の数キロ手前で、突然、ラーメン屋の前にバコーンって車止めてな、『おい、ラーメン3つ!』って注文すんねん。ほんなら、同行しているスタッフがそわそわし出して、『あの、兄貴、ラーメンなんて頼んじゃって、絶対、セミナーに間に合わないと思うんですけど、大丈夫ですか……。兄貴、みんなが待っているんですけど。遅刻しないほうがいいと思うんですけど』って。でもな、遅刻するほうが、最終的によかった部分が多いこともあるんや」

「兄貴、どうしてでしょうか? 相手を待たせているわけですから、遅刻をしてはいけないと思うのが普通ですよね」

兄貴は、得意げに、ニッと笑いながら、話を続けた。

「遅刻して、会場に到着したら、そら、一発目にバコーンと謝るねんで。『あ~スーパーウルトラ大遅刻が炸裂や。30分も遅れてしもた。みんな本当にすまん。もう、これは、完全にみんなにお詫びをしなきゃならん』って。そうすると、どうなるか」

「兄貴、どうなるのですか?」

兄貴の目が、ギラリと光った。

「そら、オレが悪くて、会場の全員が正しいんやから、みんな気持がよくなるんや。せやろ。それでな、みんなは『謝る人』が好きなんやから、『この人は言い訳をしない人だ。この人は信用できそうだから、親しくなりたい』と思うようになるやんけ」

「確かに、そうですね」
兄貴は、ニッと笑うと、カップラーメンを、もうひとすすりした。

「けれどお偉い先生とかはな、遅刻してきても謝らないわけや。『言い訳』というのをクドクドしてしまうわけやな。するとな、謝らないということはや…、偉い先生である自分の方が正しくて、ちょっと遅れてきたことに腹を立てている会場のみんなが悪いって言っているようなものやから、『こんな謝らないやつは信用できないし、近寄りたくない』と、みんな思うやん」_

たしかに、いくら偉い先生でも、待たされているほうは「イラッ」としているわけだから、なにかひと言くらいは「謝ってほしい」と思うはずだ。それは、どんな偉い先生であってもだ。
あ…、でも、「謝る↑↓謝られる」が、逆の立場だったら、どうしたらいいのだろう?

「兄貴、もし、逆に、兄貴が謝られる立場だったとします。謝られたら、相手を許すべきですか?」

兄貴の目が、ギラリと光った。

「『許す』が正解やね。『許す』っていう感情から遠ざかってはいけないんやて。『許す』は、人間を続けていく上で、ものすごく大切なんや、本当にそう思うわ。それにな、きちんと謝れば、ほとんどの人は許してくれるもんなんやて」

「そうですね、確かに。本当に、言い訳をせずに謝ったら、きっと許してくれますよね」

「せやからな、いっちゃん。仕事でも、人間関係でも、うまい言い訳とか考えたり、なんとか取り繕うたりせずに、バコーンと謝ったらええねんて。そしたら、みんな『謝る人』が好きなんやから、『この人は言い訳をしない人だ。この人は信用できる』って思われるんや。どや、これ、完~全にさわやかやろ?」

兄貴は、ニッと笑うと、残りのカップラーメンを、すさまじい勢いで平らげ、「アカン、完~全に腹割れそや」と言って、スリスリと、おなかをさすった。

(以上)

【兄貴の教え 第2話】 ぬるま湯につかっている日本人は、「オフェンス7」にせよ

――とある日の、夜20時。

ヌガラの街から戻ってくると、もう、夜の20時になっていた。

リビングには、昼間にいた数人の日本人が、やはり、パソコンをいじったり、テレビを見たりして、兄貴の帰りをまちわびていたようだ。

「おぉ、みんな、待たせて、すまんかったのう」と兄貴は言って、さっき銀行でおろした「ルピア」と「円」のお金をグイッとサイフに押し込むと、日本円でおそらく、300万円は入っているであろう、「カルティエの極厚ワニ革サイフ」を、ボンッとテーブルの上に置き、ニッと笑った。

すぐに兄貴の近くに、みんなが寄ってきて、さまざまな質問を兄貴にぶつけていた。

兄貴、人気があり過ぎて、ハードだぜ。

そうこうするうちに、時間は、深夜24時に。

NHKが、「EU(ヨーロッパ連合)の財政破綻危機についてのニュース」を報じていた。

EUの国々が、本格的に財政破綻してしまったとしたら、世界経済はどうなるのだろう? おそらくは、日本の経済にも深刻な影響を及ぼすのだろう。「リーマン・ショック」が再現されるのだろうか……。正直、僕にはわからない。新興国で暮らすウルトラ大富豪の兄貴は、世界経済の状況をどう思っているのだろうか。

僕は、周りの日本人たちの「質問」が一段落したところをみはからって、兄貴に質問をしてみた。

「兄貴、漠然とした質問ですが、これから、世界経済は、いったい、どうなってしまうのでしょうか?」

兄貴は、眉間にシワを寄せると、グッとこちらを見た。

「せやな…、これはもう、完~全にアカンねんな。これからはもうな、正直、先進国には期待できないと思うわ。EUの27カ国のうちな、4カ国は特にヤバイねんけど、こいつらがパコーン財政破綻なんかして、経済が吹っ飛びよると、ドルもユーロも円も、先進国通貨は、軒並み『値下がり』して駄目になってしまうわな。で、そのあとの世界の動きはどうなるかなんやけどな……。極端なこと言うたらな、『イスラム教』の国々が勢いを増してくるかもしれないんや」

「…はい」

「『G8(主要8カ国首脳会議)』もな、オレに言わせれば『ええ加減にしとけ』と言いたいんや。世界に何カ国あると思うとんねん。195カ国やで。それを、たったの8カ国で話し合ってな、なんとかなる話と、ちゃうやろ。そんなん、完~全にその8カ国の都合のいいようになってまうやんか」

「…確かにそうですね」

兄貴は、タバコを取り出すと、カチンッと、ジッポーライターで火をつけた。

「そんでな、イスラム教徒の国々が、もし、団結力を持って世界経済を動かしはじめたとしたらや……、G8なんかバコーンとぶっ飛んでしまうかもしれないレベルの破壊力やで。ということはや、イスラム教徒の国々に入っている、インドネシア、マレーシアなんかの東南アジア、インド、中東諸国、アフリカに至るまで、イケイケどんどんになって、世界経済を引っ張っていく可能性はあるよ。なにしろ、この新興国たちは、『高度経済成長期』が、これからやってくるんやからな」

兄貴は、バフ~とタバコの白い煙をふかしながら、ニッと笑った。

「となると、高度経済成長が終わってしまった先進国は、これからピンチなんですか?」

「そら、先進国はフルラインナップで、軒並みピンチ炸裂やで。これからの世界の動きを決めるのは、新興国かもしれないんや。『新興国』だと思って、なめていたりしていると、10年後にエライことになるで。先進国は、そら、新興国にスライデングで土下座するぐらいの勢いで、頭下げなきゃいかんようになるかもしれんで」

兄貴は、得意げな顔をして、ニッと笑った。

「たとえばや。オレは実際には『貯金』というものはせずに、お金をどんどん投資してるんやけどな…。もし、どこかの国の銀行にお金を預けるとするならばや……、オレなら『日本での貯蓄』はせんなぁ。貯金するとするなら、バコーンと『新興国の通貨』やろな」

兄貴は、モワモワと、白い煙を、口の周りにはき出した。

「たとえばな、エネルギー資源という燃料を持っているとか、備蓄できる食糧となる食べ物を持っているとか、これから高度経済成長期を迎えるとか、こういうところの通貨を貯蓄するのならええんや。そういう国は、自国の通貨の価値が上がるからやねん」

「なるほど…」

「せやけどな、欧米諸国や日本をはじめとする『先進国通貨の貯蓄』は、これからはダメやな。先進国はフラフラで、期待ができん。これから通貨の価値は、さがっていく一方やねんて、まぁ、見てろや…」

兄貴は、眉毛をグッと吊り上げて、ニッと笑った。

「なるほど、それが、これからの、世界経済の動きなのですね」

「オレもな、いっちゃん…。一応、『日本の円』も持っているんや。持っているんやけれど、それは、しかたなしに…、やねん。『日本との取引』ゆうのがあるからや。でもな、それがないのなら、もう『円』は持たんよ。たとえ、日本円で10億円貯金があったとしてもや…、円の価値がバコーンと下がったら、こっぱみじんで、一発アウトやねんて。したがって、これからは、『新興国の通貨を持つ』というのがひとつの王道やねんな」

兄貴は、「あ~これ、完全に間違いないで」と言うと、ニッと笑った。

「……たしかに、兄貴。運転手を務めてくれたマデさんを見て、僕は思ったんです。なにしろ、空港からヌガラ地区まで、3時間運転しっぱなして、ケロッとしているんですよ。日本では、あんなに真剣に、あんなに文句を言わずに運転をする人はいないんじゃないかって。『ツライ』とか、『イヤだ』とか、『休みたい』とか、言って、手を抜く人のほうが圧倒的に多いと思います。もう、なんというか、根本的に、根性が全然違うのですよね」

兄貴は、タバコの煙をはきだすと、目をギラリと光らせた。

「あのな、いっちゃん。うちの会社の従業員でな、おもろいのは、施工でもなんでもそうやけど、たとえば、デパートやホテルの駐車場なんかを大工事するときはな、なんと、『朝6時』からスタートをかけるんや」

「え…、朝6時スタートですか」

「けどな、オレはなにも言うてないんや。『朝早くからバコーンはじめろ』とか、ひと言も言うてない。社長がな、社員になにかを言ったわけでもないねんて。社員たちが自主的にやっているんや。それはなんでかいうたらな、『必死のパッチでやって、その日中に終わりたいから』や。これ、かなりエライと思わへんか? そら、完~全に、根性入っとるで」

「今の日本と、今のインドネシアを比べたら、国民ひとり一人の根性と気合が違いすぎる気がしました。もちろん、インドネシアのほうが気合い十分です」

「せやろ。エネルギーと根性が、完~全に違うんや。インドネシアの人たちは、ヘタしたら日本人よりも『ご飯』食うてないかもしれん。それなのに、早朝から夜中まで、バコーンと頑張れるんや。それは、目的や目標がガツンとあるからなんやな」

「兄貴、インドネシアの人たちは、どんな目標を持っているのですか?」

兄貴の目が、ギラリと光った。

「やっぱりな、本気で『豊かになりたい』と思うてるんや」

兄貴は、完全に言い放つと、ニッと笑った。

「ようするにや…、貧乏はいやでお金持ちになりたいねんて。ここが日本と大きく違うんや。豊かになりたければ、どうしたらええか? 決まっとるがな……。それは『オフェンス(攻撃)』なんやて。凸凹やったら『凸』のほうで生きなきゃならん。ようするにな、攻撃力が大事なんや」

「攻撃力ですか…」

「せや。ところが日本人はどうや? 全員、『ゴールキーパー』で、守って守って守りまくっとるがな。ディフェンスばっかりやねん。そんなんで成功するはずないやろ」

「確かにそうですね、兄貴」

「そや。成功したいのならばな、お金持ちになりたいのならば…、希望とか、夢とか、豊かさを手に入れたいならば…、攻めて攻めて攻め込まなければダメやねんて。たとえばサッカーだって、ずっと守ってばかりでは、点がとれずに、いつかゴールを決められて、負
けてしまうんや。せやろ?」

「…確かに、ずっと守っていては、成功はしないでしょうね」

「それなのにや…、守ってばかりで、だれも動かないやろ。それぐらいに日本では、『全員が中流』という『ある程度の豊かさのぬるま湯』につかりきって飼いならされているんやて。もう、完~全に、会社の歯車になってんのやて。せやろ?」

「確かに、日本人は、『全員が中流』で、ある程度、全員、豊かだから、今よりがんばろうという気持ちが弱いのでしょうね」

兄貴は、バフーっと、タバコの煙をはき出すと、目をギラリと光らせた。

「せやから、『オフェンス7』対『ディフェンス3』や。とにかく、攻めて、攻めて、バコーンと攻めていかんと、ほんま、日本は取り返しがつかなくなるで、ガハハハハッ!」

兄貴は、突然、お皿の上にとまったハエを、素手でパコーンと捕まえて、「完~全にしとめたわ。オレに見つかったら、終しまいや。どや、いっちゃん、これもオフェンス7(攻撃7)の証拠やねん」
と言うと、ニッと笑った。

兄貴、すげえ。もしや空手の師範? 素手でハエを捕まえられるとは…。

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