痛みこそが他者との心を近づける。

少し前にこんなニュースがあった。

千葉・富里市の歯科医院で、
歯科医師に、同じ痛みを味わわせてやろうと、
金属棒で追いかけ回した疑いで、
患者の79歳の男が逮捕された。

逮捕された、自称無職の松坂容疑者(79)は、
23日、富里市七栄の歯科医院の診察室で、
男性の歯科医師(42)に、
先端を鋭利にとがらせた、
長さおよそ30cmの自作の金属棒を突きつけ、
追いかけ回した疑いが持たれている。

松坂容疑者は、その場で、
歯科医師の妻で歯科助手の女性に取り押さえられた。

警察によると、松坂容疑者は、
以前からこの歯科医院に通院していて、
「こんなに痛い思いをしているのだから、
同じ痛みを味わわせてやろうと思ってやった。
入れ歯のかみ合わせが悪く、痛かった」
と容疑を認めているという。

【フジテレビ系ニュースより】

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この文章を読んで
あなたはどちらに肩を持つのか分かりませんが、
私はこの79歳の男性に同情している。
なぜならこの人は
以前から通院していることから
治療の度に痛みは緩和していくはずだ
と思っていたはずで、
それがあまり良くなっておらず
ついには自作の金属棒で脅すという暴挙に至る。

上の文を少し注意して読んでほしい。
この男性はこの歯科医の妻である歯科助手に
何と取り押さえられている。
金属棒を持って怒鳴り込んできた男を
女の細い腕力で。
(彼女がボディビルをやっているとは思えません)
しかも敵意を向けている歯科医の妻ならば
自分を苦しめた奴の仲間だとみなし、
この妻に危害を与えてもいいはずなのに
そのようなことをしていない。
自分を警察に通報している妻を発見し
それを阻止することもできたはずだ。

なぜしなかったのだろうか?

最初から歯科医を傷つけようとは思っていなかったから。

なぜ医者なのに患者の痛みが分からんのや?
それでも医者か!?
お前のようなヤブ医者がこの先歯科医を続けておると
俺のような被害者が今後も出てくる。
皆のためにも少し懲らしめたらなアカンな。
俺が食い止めたる!!

治療を受けていた時
歯科医の「治したい、救いたい」という
純粋なる想いを感じ取れなかったのだろうか。
医者という者はこんなもんなのかという
無念さもあっただろう。
次第に犯行動機が強化されていく。

それにしても
なぜ金属棒を持った自分の患者と対峙して
「よし、腹割ってお互い話し合おうじゃないか」
という態度がないのか。
追いかけまわされたということは逃げたということ。
なぜ堂々と自分の患者と向き合わないのか。

このヤブ医者はハートが冷めてるんだよ!!

マックス・ウェーバーが
「精神なき専門人、心情なき享楽人」
と言ったらしいが、
「機械ロボット的な従業者、無目的な刹那主義者」
そんな意味だろうか。

なぜ人は人と分かち合えないのか。
どうして分かち合おうともしないのか。

痛みが理解できないからだ。
理解できぬものを分かり合えるはずがない。

死と苦痛は万人に平等。

『同苦』こそが理解のための試金石となる。

魂は1つであるという。

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